今回は、ボードゲーム専門メディア「Shut Up & Sit Down」のマット・リーズさんとトム・ブリュースターさんによるレビューをもとに、月面コロニー大惨事の魅力を紹介します。数多くの作品を遊び、ルールだけでなく、遊んでいる最中の楽しさや盛り上がりまで丁寧に伝えてきた2人が、本作を新たなお気に入りのひとつとして高く評価しています。
月面基地をどんどん発展させていくエンジンビルドと、完成した基地が災害やロボットによって崩れていくサバイバル。この正反対とも思える2つの要素が、ひとつのゲームに詰まっています。気持ちよく育てた生産基盤を、自分の手で切り捨てながら生き残るという、かなり珍しい体験が待っています。

前半は基地を強くするゲームなのに、後半になると「どこまで壊さずに耐えられるか」という勝負に変わります。成功と大惨事の落差がすごいゲームです。
結論
月面コロニー大惨事は、エンジンを作る楽しさと、それが崩れていく苦しさを、ひとつの物語として味わえる素晴らしいゲームです。序盤は、資源や住民を大量に生み出す基地を思いきり作れます。ところが、共有デッキに災害が増えていくにつれ、目的は「発展させること」から「なんとか生き残ること」へ変わっていきます。
基地をどの方向へ育てるかはかなり自由で、少し変わった戦略も試せます。ただし、好きなことを好きなだけ続けられるわけではありません。災害への備えが足りなければ、せっかく完成したエンジンもあっという間に失ってしまいます。この短い自由時間と、その後に押し寄せる容赦のない崩壊がたまりません。
共有デッキからカードをめくり、全員が同じ出来事へ一斉に対応するため、待ち時間も少なめです。ほかのプレイヤーが加えたカードにも、しっかり振り回されます。最初は仕掛けの面白さが中心のゲームにも見えましたが、展開を変えるツイストや豊富な建物カードのおかげで、繰り返し遊んでも楽しさが続きます。
月面コロニー大惨事の概要
| 参加人数 | 1~5人 |
| プレイ時間 | 45~90分 |
| 対象年齢 | 14歳以上 |
| 発売時期 | 2025年 |
| メカニクス | デッキ構築、同時アクション、バリアブルフェーズオーダー |
| ゲームデザイン | ドナルド・X・ヴァッカリーノ |

画像引用元:Ravensburger公式商品ページ
月面コロニー大惨事では、プレイヤーがそれぞれ自分の月面基地を管理します。最初から使えるのは、資金を得る「採掘」、食料を得る「農業」、カードを引く「研究」、建物カードを配置する「建設」、建物へ箱を補充する「再入荷」という5種類のアクションです。
建物を作ると、それぞれに対応したアクションが強くなります。採掘施設を増やして、一度に大量の資金を得ることもできます。農業を強化し、食料だけでなく住民まで増やせるようにすることも可能です。全員が同じ状態から始まるのに、数ラウンドもすれば、それぞれまったく違う基地ができあがります。

ゲームは、プレイヤーが順番に手番を行う形ではありません。共有イベントデッキからカードを1枚ずつ公開し、その内容に従って進めます。「労働」が出たら、全員が好きなアクションを同時に実行します。最初のデッキは8枚で、そのうち4枚が労働です。すべてのカードを処理したら、デッキをシャッフルして、そのまま次のラウンドへ進みます。

問題は「トラブル」です。トラブルが出るたびに、新しい災害カードがデッキへ加わり、しかも直後に処理されます。空腹、事務処理、事故、ガス漏れ、停電、暴走ロボットなど、月面基地には次々と問題が押し寄せます。追加された災害は次のラウンドにも残るため、労働できる機会は相対的に減り、基地の状況はどんどん苦しくなっていきます。
住民の損失に耐えられなくなったら、建物を破棄し、そこにいる住民を使って不足分を補います。誰かの基地から住民が完全にいなくなるか、イベントデッキの終端へ到達するとゲーム終了です。その時点で、最も多くの生存者を残しているプレイヤーが勝利します。
月面コロニー大惨事の感想
作ったエンジンを壊す展開が新鮮
序盤は、まさに王道のエンジンビルドです。建物を並べてアクションを強くし、最初は4金しか得られなかった採掘から、大量の資金や追加効果を受け取れるようになります。農業を強くすれば、食料だけでなく、住民やカードまで次々と増えていきます。
成長の方向に厳しい制限はなく、ひとつのアクションへ思いきり集中しても構いません。そのため、プレイヤーごとにまったく違う基地ができあがります。カード同士の効果がきれいにつながり、自分だけの巨大な生産装置が動き始めた瞬間は、本当に気持ちいいです。
ところが、住民が足りなくなると、建物を破棄しなければなりません。序盤に喜んで作った基地を、終盤では自分の手で少しずつ解体していくことになります。月面コロニー大惨事は、エンジンビルドであると同時に「エンジン破壊」のゲームでもあります。
どの建物なら失っても耐えられるのか。この判断が、なかなか悩ましいです。温室を切り離し、地下施設にいる住民へ食料を残すような決断も必要になります。すべてを守ろうとするのではなく、最後まで動かしたい部分を見極めて残していくのです。
共有デッキが平穏な基地を惨事へ変える
月面コロニー大惨事を特別な作品にしているのが、全員で使うイベントデッキです。最初はわずか8枚で、そのうち半分は自由に働けるカードです。1ラウンドに4回もアクションできるので、序盤の基地は驚くほど早く成長します。
ところが、最初から入っている2枚のトラブルが、ラウンドごとに新しい問題を連れてきます。しかも、加えられたカードは取り除かれません。デッキを周回するたびに空腹や事故がもう一度起こり、そこへ新しい災害まで上乗せされていきます。
序盤には当たり前だと思っていた労働カードが、数ラウンド後には待ち遠しくて仕方のない存在になります。基地を発展させたいから働くというより、「災害じゃなかった。働ける!」と喜ぶようになるのです。平穏だった植民計画が大惨事へ変わっていく様子が、ゲームの仕組みだけで自然に伝わってきます。
ロボットが出てくると一気に壊れ始める
序盤の空腹や事務処理は、まだ計画に少し邪魔が入る程度です。発展のために残しておきたかった食料を、住民へ与えなければならない。最初のうちは、そのくらいの予定変更で済みます。
ところが、ロボットが加わると空気が一変します。採掘、研究、軍事など、いくつかのロボットが用意されていて、それぞれ異なる副次効果を持っています。ただし、どのロボットも共通して、たくさんの住民を奪っていきます。
しかも、新しく加わったロボットはデッキの一番上へ置かれます。つまり、次に何が起こるか分かっているのに、その被害を避けられません。目の前に迫ってくる大惨事を見ながら、できる範囲で耐えるしかないのです。
前半では「月面コロニー」が中心だったゲームが、ロボットの登場後は急激に「大惨事」へ傾きます。順調だった基地が、笑ってしまうほどの勢いで壊れていく。この大きな落差が面白く、かなり深刻な損害まで、卓上では笑える出来事になります。
全員同時に動くので待ち時間が少ない
イベントカードを1枚公開したら、全員がその内容へ同時に対応します。労働なら、それぞれが自分のアクションを選びます。災害なら、全員が自分の基地で損失を処理します。
デッキを一巡した後にも、面倒な維持処理はありません。カードをシャッフルすれば、すぐに次のラウンドを始められます。大きな生産エンジンを作るゲームなのに、ほかの人の処理を長く待ったり、ラウンドの合間に細かな管理をしたりしなくてよいのは、かなりうれしいところです。
ツイストによって毎回違う攻略が必要になる
ゲームを始めるときには、ツイストをランダムに2枚選びます。この2枚は毎ラウンド発生し、最初の8枚しかないデッキの4分の1を占めます。当然、ゲーム全体への影響も小さくありません。
基本となる資源の価値が少し変わるだけでも、強い建物や、基地を伸ばすべき方向は変わります。ひと目で分かるほど大きく状況を変えるツイストもあれば、小さな違いから経済全体を変えてしまうツイストもあります。
最初に遊んだときは、エンジンが壊れる驚きを楽しむ、少し仕掛けの強いゲームにも感じました。ただ、ツイストが変われば、取り組むべき問題も変わります。どんな大惨事が待っているかを知った後でも、しっかり新鮮さが残ります。
建物が共有空間まで変えていく
一部の建物は、自分のアクションを強くするだけではありません。新しいカードを共有デッキへ加え、ゲームそのものを変えていきます。たとえばキッチンを作ると、毎ラウンド食料を資金へ交換できる自動販売機が登場します。
この自動販売機は全員が利用できます。それでも、食料を多く生産できるキッチンの持ち主が、一番得をしやすい仕組みです。ほかのプレイヤーも恩恵を受けられる一方で、カードが出るたびに「あの人は、また得をしているな」と気づかされます。
持ち主だけが利益を受け取る特典カードもあります。そのカードが共有デッキから出ると、ほかの全員は何も起こらないまま、持ち主だけが報酬を受け取ります。処理自体は短いのに、誰がどのカードをデッキへ入れたのかがはっきり分かり、自然とお互いを意識するようになります。
さらに面白いのが、自分には便利な建物なのに、全員へ悪影響を与えるカードまで追加してしまう場合です。原子炉は安く建てられて便利ですが、破壊されると放射線が発生し、住民や建物が失われます。
防御力の高い建物を手に入れる代わりに、新しい災害やロボットをデッキへ加えることもあります。全員の状況は悪くなるけれど、自分だけは被害を受けにくい。そんな、なんとも意地の悪い選択ができるわけです。
自分の基地を強くする行動が、共有デッキを通して全員の世界を悪化させるところに、月面コロニー大惨事らしい面白さがあります。
型から外れた戦略も試せる
戦略の幅はかなり広く、ひとつの資源へ極端に集中しても構いません。使い切れないほど採掘で資金を増やすこともできます。大量のカードを引くことも、反対に、自分ではほとんどカードを引かず、条件による無料補充を狙うこともできます。
よくある攻略から少し外れて、ゲーム内のひとつの仕組みだけを頼りにする変わった戦略も試せます。もちろん、毎回うまくいくとは限りません。それでも「この要素を使わなくても勝てるだろうか」と、自分なりの実験ができる余地があります。
ただし、自由に動ける時間は長くありません。災害が増えてきたら、生産力を伸ばす計画から、生存への備えに切り替える必要があります。ツイストや、ほかのプレイヤーが加えたカードを無視して、自分のエンジンだけを育てていると、完成した直後にすべてを失うことになります。
1950年代風の見た目と読みやすさが合っている
全体の見た目は、1950年代を中心とした昔のSF作品へのオマージュになっています。きらきらした未来への期待がある一方で、細かな設定にはどこか不自然さが残る。そんな時代ならではの雰囲気が、うまく取り入れられています。
食料を表すリンゴも、単に分かりやすい記号として置かれているだけではありません。プレイヤーボードにはリンゴだらけの果樹園が描かれていて、月面の住民が本当にリンゴばかり食べているようにも見えます。この少しずれた細部が、昔のSFらしい、夢はあるけれどどこか不自然な世界を作っています。
色分けもはっきりしていて、カードの種類や効果を読み取りやすいです。ゲームが終わった後に分類するカードは、種類ごとに輪郭まで変えられているため、見た目だけで整理できます。華やかに飾り立てるのではなく、昔の食堂に置かれたメニューのような簡潔さが、そのまま使いやすさにつながっています。
一部のキャラクター表現は残念
全体の美術はとてもよくできています。ただし、プレイヤーキャラクターのひとつには、どうしても気になる表現があります。ラスタ帽をかぶり、大麻を連想させる描写と食欲に関する冗談を組み合わせた人物です。ほかの1950年代風SFのデザインからも、かなり浮いて見えます。
悪意を持って作られたとは感じません。それでも、数十年前に使われていた古いステレオタイプのように見えます。ほかのキャラクターには幅広い人物像が描かれているだけに、この1枚が全体の印象へ余計な影を落としてしまっているのが残念です。
ゲーム内容が素晴らしくても、不必要な固定観念を含む表現は、編集の段階で見直してほしい部分です。プレイヤーボードはすべて同じ性能で、違うのは名前と絵だけです。それなら、別のアートへ差し替えることも難しくなかったはずです。
何度も続けて遊びたくなる完成度
最初の数回は、驚きと笑いがとにかく大きいです。テーマ性も強いので、仕掛けを知ってしまった後も楽しさが続くのか、少し心配になりました。
ところが実際には、ツイスト、建物、特典、開発カードの組み合わせによって、毎回違う生産と崩壊の流れが生まれます。大惨事が起こることは分かっていても、そこへ至る過程や、どのように耐えるかは同じになりません。
自由なエンジン作り、共有デッキを通した間接的な攻撃、そして切り捨てる建物を選ぶ終盤の判断。この3つが、きれいにかみ合っています。初めて遊んだ後、24時間以内に5回も遊びたくなったというのも納得できるほど、中毒性の高い作品です。
月面コロニー大惨事は、仕組みの完成度、テーマとの一体感、繰り返し遊べる変化のすべてを備えた、新たなお気に入りと呼べるゲームです。
レビュアー紹介
マット・リーズ(Matt Lees)/トム・ブリュースター(Tom Brewster)
ボードゲーム専門メディア「Shut Up & Sit Down」のプレゼンター・レビュアーです。ルールや戦略だけでなく、卓上でどのような感情が生まれるのか、テーマと仕組みがどう結びついているのか、表現に問題がないかというところまで含めて作品を見ています。
月面コロニー大惨事では、共有デッキが生み出す一体感、エンジン構築から崩壊へ向かう展開、戦略の自由度、ツイストによる繰り返し遊べる点を高く評価しています。一方で、一部のキャラクターアートについては、古いステレオタイプを感じるとして、問題点もはっきり挙げています。


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