本記事では、パブリッシャーからの金銭的報酬を一切受け取らないことで知られる、独立系ボードゲームレビューチャンネル「No Pun Included」による、『グルームヘイヴン:獅子のあぎと(Gloomhaven: Jaws of the Lion)』のレビューをご紹介します。
No Pun IncludedはElaine(エレイン)とEfka(エフカ)の2人によるチャンネルで、ゲームの文化的・批評的な側面まで掘り下げた独自の視点が特徴です。パブリッシャーとのスポンサー契約や有償レビューを一切断り、視聴者からのパトロン支援だけで活動を続けるその姿勢は、ボードゲームレビュー界でも特に高い倫理的信頼を誇ります。
今回のレビューは、グルームヘイヴンを最も遊んだゲームと公言するEfka氏が担当しています。
結論:グルームヘイヴンへの、最高の入口
コンパクトでセットアップが速く、チュートリアルが丁寧で、それでいてグルームヘイヴンの本質的な面白さはまったく損なわれていません。キャラクターも個性的で魅力的で、正直なところ、これをプレイしてからグルームヘイヴン本編の壮大なキャンペーンよりこちらの方が好きかもしれないと思い始めています。
グルームヘイヴンに興味はあるけれどまだ踏み出せていない方、このゲームはあなたのために作られた一作です。
概要
| 参加人数 | 1〜4人 |
| プレイ時間 | 30〜120分 |
| 対象年齢 | 14歳以上 |
| 発売時期 | 2020年 |
| メカニクス | 協力プレイ、バトルカード(攻撃値-防御値) |
| ゲームデザイン | アイザック・チルドレス(Isaac Childres) |

画像引用元:Cephalofair公式サイト「Gloomhaven: Jaws of the Lion」紹介ページ
『グルームヘイヴン:獅子のあぎと』は、BGGで長年1位の座を守り続けてきたボードゲーム界の巨人『グルームヘイヴン』の世界観を引き継いだ、独立型のコンパクト版キャンペーンゲームです。プレイヤーは傭兵団「獅子のあぎと」のメンバーとして、グルームヘイヴンの街で起きる連続失踪事件の謎を追いながら、全25シナリオの協力型戦術ダンジョンクローラーを体験します。

各シナリオでは、プレイヤーは同時に2枚のカードを選んで手番の行動を決めます。各カードには上段アクションと下段アクションがあり、1枚の上段を選んだら、もう1枚の下段を選んで実行するという仕組みです。上段はおおむね攻撃系、下段は移動系ですが例外も多く、2枚の組み合わせによって様々な戦略が生まれます。また選んだカードの中央に記載された数値がイニシアチブとなり、敵の行動との兼ね合いで行動順が決まります。

体力の管理も独特で、ダメージを受けたとき体力を減らすか手札のカードを1枚失うかを選べます。カードは使うごとに捨て札になり、手札がなくなったらレストして捨て札を拾い直せますが、そのたびに1枚が永久に失われます。カードを使い切ったら(または体力がなくなったら)そのシナリオから脱落するため、「手札=残り行動回数」という緊張感が常に漂います。
本作最大の特徴は、全シナリオが専用のシナリオブックで展開される点です。タイルを並べて盤面を作る必要がなく、そのままブックを開けばマップになるため、セットアップ時間が劇的に短縮されます。また最初の5シナリオはチュートリアルとして段階的にルールが追加される構成で、初心者でも無理なくゲームの深さを学べる設計になっています。
感想
グルームヘイヴンが「現象」である理由
グルームヘイヴンが特別なのは、ダンジョンクローラーというジャンルだからではありません。このジャンルのゲームは毎年山ほど出ています。規模の大きさや、キャラクターが引退して新キャラが解放されるレガシー要素も魅力的ですが、それだけで頂点に立ち続けてきたわけでもない。グルームヘイヴンが唯一無二の地位を誇るのは、ただただゲームとして本当によくできているからだと思います。
カードを2枚選んで行動を組み立てる仕組みは、計画を立てる喜びと予期せぬ展開の両方を提供してくれます。敵の行動を予測しながら2枚を選ぶ段階と、蓋を開けてみたら思い通りにならないという局面が絶妙なバランスで繰り返されます。「完璧な手を見つけた」という高揚感と「計画が崩れた」という焦りが交互に来るこの感覚が、何十回プレイしても飽きない理由だと感じています。
チュートリアル設計の圧倒的な優秀さ
グルームヘイヴン本編のシナリオ1は、正直なところ良くない入口です。ルールブックは分厚く、最初のシナリオはひたすら難しく、ゲームの本当の面白さが見えないまま脱落してしまう人が多いのも頷けます。
『獅子のあぎと』はその真逆のアプローチを取っています。シナリオ1ではルールの3分の2を省き、弱い敵をすぐ倒せる爽快感だけを体験させます。シナリオ2ではペース配分とカード管理を教え、シナリオ3でさらに一歩踏み込む。この段階的な設計のおかげで、難しいルール(例:ダメージをカードで肩代わりできる)を、実際のプレイを通して自然に学べます。
50ページのルールブックを読んでから始めるのと、5ページ読んですぐ遊んで体で覚えるのでは、体験の質がまったく違います。
シナリオブックが変えたセットアップ体験
このゲームで最も革新的だと感じた部分は、シナリオブックが盤面になるという仕組みです。グルームヘイヴン本編のセットアップには相当な時間と手間がかかりますが、『獅子のあぎと』はブックを広げるだけで盤面が完成します。5分、慣れれば3分で準備が終わります。
さらにシナリオ固有のイラストが盤面に描かれているため、汎用タイルを並べるより場面の雰囲気がずっとよく伝わります。この一点だけで、プレイ頻度が格段に上がると実感しています。難しく作ること以上に、遊びやすく作ることの方が価値を生む場合がある、という好例です。
ストーリーの焦点が増した「少ない方が豊か」な体験
グルームヘイヴン本編は30回以上プレイしてもストーリーをほとんど覚えていない、というのが正直なところです。分岐が多く世界が広すぎて、物語の焦点が薄れてしまっています。
それに対して『獅子のあぎと』は、規模を絞った分だけストーリーがずっと明確です。悪役が誰で、なぜ戦っているかを常に把握できる。冒険の合間に読む小さなイベントテキストも、本編より軽妙でユーモアがあり、バトルとは異なる日常の一面をキャラクターに与えてくれます。大規模な叙事詩ではなく、的を絞ったファンタジー冒険として、これはこれで完成した物語体験になっています。
気になる点:本編が好きな人への響きにくさ
一点だけ正直に言うと、グルームヘイヴン本編を遊んで「やっぱり合わなかった」と感じた方にとって、この作品が大きく違う体験を提供するかというと、そうとは言い切れません。同じシステムの、より小さく軽い版です。また、箱のサイズがもう少し大きければなお良かったとも感じます。
ただし、グルームヘイヴンを外からずっと眺めてきた方、始めたいけれど大きすぎて踏み出せなかった方には、これ以上ない入口です。このゲームを遊んでから、グルームヘイヴン本編の扉を開く準備が整うはずです。

グルームヘイヴンに興味があってもなかなか踏み出せなかった方、ここから始めると後悔しません。チュートリアル設計が本当に親切で、いつの間にか本格的なダンジョン戦術ゲームの虜になっています!

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