本記事では、ボードゲームデザイナーの視点からボードゲームを評価するユニークなYouTubeチャンネル「Adam in Wales – Board Game Design」によるレビューをもとに、南チグリス三部作第一弾『南チグリスの旅人(Wayfarers of the South Tigris)』をご紹介します。
レビュアーはウェールズ在住のゲームデザイナー・歯科医・YouTuberのAdam Porter(アダム・ポーター)氏です。Jamey Stegmaierから「私のチャンネルと似た感覚で、より明確でスタイリッシュ」と賞賛された同チャンネルは、新規ユーザーへの導入・プロダクトデザインの観点からゲームを採点する独自のフォーマットが特徴です。自身はライトゲーマー寄りでありながら、アーク・ノヴァやドミナント・スピーシーズ、ローゼンベルクの重量作も経験済みという立場から、今作のレビューを正直に語っています。

ボードゲームデザイナーの視点で採点する独自フォーマットが面白いレビューです。「好きか嫌いか」より「誰のためのゲームか」を丁寧に整理してくれています。
結論:総合8点。面白いが、自分向きかどうかは正直わからない
採点を先に言います。プロダクトデザインの評価フレームワークで計算すると、このゲームは11点満点中11点の潜在スコアから3点を減点して総合8点です。悪くない——むしろかなり良い。でも「このゲームが自分向きか」と問われたら、正直わかりません。
このゲームは魅力的であると同時に、フラストレーティングでもあります。複雑なポイントサラダ系ユーロが好きな人には間違いなくおすすめできます。ただしルール量としてはかなり大きな難度の階段があることは覚悟してください。
概要
| 参加人数 | 1〜4人 |
| プレイ時間 | 60〜90分 |
| 対象年齢 | 12歳以上 |
| 発売時期 | 2022年 |
| メカニクス | ワーカープレイスメント、ダイスプレイスメント、タブロービルディング、セットコレクション |
| ゲームデザイン | シェム・フィリップス(Shem Phillips)、サム・J・マクドナルド(Sam J. McDonald) |

画像引用元:Renegade Game Studios公式サイト「Wayfarers of the South Tigris」紹介ページ
西暦820年頃のアッバース朝カリフ制最盛期のバグダードを舞台に、プレイヤーは探検家・地図制作者・天文学者として南チグリス川周辺の陸地・水路・夜空を記録していきます。ゲームの目的は、同じアイコンのセット、異なるアイコンのセット、そのほかセットコレクションボーナスを組み合わせてゲーム終了時に最も多くの勝利点を得ることです。

手番にできる行動は3択です。ワーカーをボード上のアクションスペースに置く、ダイスを自分のプレイヤーボード上のダイス配置スポットに置く、またはダイスをすべて回収してリロールするかです。ワーカーはアクションスペースのカードに留まり、他プレイヤーが後にそのカードを取得するとワーカーも一緒に回収されます。

ダイスの使い方がユニークです。各ダイスには3色のカラーがあり(ワーカーの色とは別)、特定のアクションスペースには特定の色しか使えません。さらにダイスを置くスペースにアイコンがある場合、キャラバン(個人ボード上の列)でそのアイコンが表示されているダイス目しか使えないという制限があります。カードはプレイヤーボードの左(陸地)・右(海洋)・上(惑星・星・彗星)に配置され、それぞれ異なる効果と得点源を持ちます。ジャーナルトラックを進めることでも報酬が得られ、いずれかのプレイヤーがトラックの終点に達したらゲーム終了です。
感想
ルールの習得に2時間かかった
ルールブックを読み、YouTubeでルール解説動画を見て、デザイナーのプレイスルーまで確認して、ようやく人に教えられると感じるまでに2時間かかりました。しかもこれはボードゲーム歴の長い自分の話です。
これだけ準備しても、実際にテーブルに出してルールを説明するのがとにかく大変でした。直感的でないルールセット、アイコンと例外の嵐、1手番に選べる選択肢の多さ——「遊びながら覚えよう」と言い出したプレイヤーがいたとき、普段なら眉をひそめるところですが、このゲームに関しては正直ほっとしました。それが唯一の現実的な方法だと感じたからです。ただし初プレイは長く、迷走しがちになることは覚悟しておく必要があります。
ルールブックとアイコンの課題
ルールブック自体にも課題があります。アイコン一覧は裏表紙にあるものの、各アクションがどう機能するかの詳細な説明がなく、「あのルール、どこかで読んだはず」というページをめくる作業が頻発します。
ゲームのコンポーネントをすべてアイコンベースにした判断自体は、シリーズの統一感を保つ意味で理解できます。でもより丁寧なリファレンスシートとプレイヤーエイドがあれば、学習体験はまったく別物になったはずです。これが3点減点した主な理由のひとつです。
手番ごとの報酬の豊富さ、そして「あと一歩」のもどかしさ
遊んでいて好きな点は、手番ごとに報酬がたくさんもらえる感覚です。銀貨や食料、陸地カード、海洋カード、宇宙カード、タウンズフォークカード、インスピレーションカード——毎ターン何かを得ながら、自分のエンジンがじわじわ育っていく手触りがあります。
一方で、「欲しいものがあと一歩のところにある」もどかしさも常に漂っています。セットコレクションを進めるためのアイコンが欲しいのに、コストはいつも持っているコインより1枚多い。ダイスの目は使いたいスポットより1ピップずれている。テンションが高くて、常に考えさせられる。それがこのゲームの密度の高さです。ただプレイヤー同士の直接的な駆け引きは薄く、このゲームとの対話が主体になります。
テーマの乖離と、それを補うタブローの美しさ
テーマについて正直に言うと、プレイ中に「探検家になっている」「天文学者として星を記録している」という感覚はほとんど来ません。アクションに物語的な文脈がなく、メカニクスをこなしている感が強いです。
ただ、プレイヤーボードの前に広がるカードのタブローは美しい。綺麗なイラストが並んだ景色は、見ているだけで満足感があります。テーマ没入感としては低いが、視覚的な満足度は高い——そういうゲームです。


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