この記事では、動画「Res Arcana – Rahdo’s Final Thoughts」の字幕内容をもとに、エンジンビルド系カードゲーム『レス・アルカナ』の魅力と気になる点を、実際に遊んだプレイヤーの目線で詳しくレビューします。
動画では、デザイナーであるトム・レーマンのこれまでの代表作である『レース・フォー・ザ・ギャラクシー』などに触れながら、『レス・アルカナ』がそれらの経験の上に成り立った「ほぼ完璧なエンジンビルダー」として語られていました。
ここでは、その内容を土台にしつつ、エンジン構築の気持ちよさや、ドラゴンなどの攻撃的なカードに対する評価まで、ひとつの長い感想としてまとめていきます。
結論:『レス・アルカナ』は、計画して組み上げるタイプのエンジンビルドが好きなら外せない一本
『レス・アルカナ』は、ゲーム開始時点から「自分のエンジンの全体像」を見通せるタイプのカードゲームです。多くのエンジンビルドゲームが、山札からの引きやドラフトによって「来たカードに合わせてその場で形を整えていく」タクティカルな作りであるのに対して、このゲームは最初に配られる8枚のカードがそのまま自分のエンジンのすべてになります。「このカードとこのカードを組み合わせれば、ここに到達できる」という勝ち筋を、最初からじっくり考えられるのがとても気持ちよいところです。
一方で、このゲームにはドラゴンや一部の攻撃的なカードが存在し、相手のリソースを削ったり、防御を強要したりする「絡み」の要素も入っています。そこに強い抵抗感があるかどうかが、このゲームを心から好きになれるかどうかの分かれ目のひとつだと感じました。
とはいえ、エンジンビルドそのものの出来栄えは本当に素晴らしく、カード枚数の少なさを感じさせない深さがあります。
総合的には、「攻撃要素を飲み込めるなら、トップクラスのカードエンジンビルダー」と断言してよい出来だと感じました。
概要
| 参加人数 | 2~4人 |
| プレイ時間 | 20~60分 |
| 対象年齢 | 12歳から |
| 発売時期 | 2019年~ |
| メカニクス | プレイヤー別固有能力/ドラフト/ハンドマネジメント |
| ゲームデザイン | トーマス・レーマン(Thomas Lehmann) |
『レス・アルカナ』は、限られたカードとリソースをやりくりしながら、自分だけのエンジンを組み上げて得点を稼ぐカードゲームです。プレイヤーは、ゲーム開始時にシャッフルされたデッキから8枚のアーティファクトカードを受け取り、それがこのゲームで使えるすべてのカードになります。この8枚を見ながら、「どのカード同士がコンボするか」「どの方向にエンジンを伸ばすか」を考え、自分の方針を決めます。
同時に、自分の担当する魔術師(ウィッチ、予言者、ドルイド、錬金術師など)も選びます。手札のカードと相性の良いキャラクターを選ぶことで、自分のエンジンの性格がはっきりと決まるのが特徴です。ゲーム中は、少量のエッセンス(リソース)からスタートし、カードの効果を使ってエッセンスを増やし、さらに強力なカードや「力の場所」「モニュメント」を取得しながら、得点を伸ばしていきます。
ラウンド数はとても短く、ルール上は4〜6ラウンドほどでゲームが終わる想定です。その中で、最初はほとんど何もできなかったエンジンが、終盤には「一手番で大量の生命エッセンスを生み出し、それを金に変換して一気に10点以上を稼ぐ」といった爆発力を持つようになります。この「ゼロからヒーローになる急激な成長感」が、レス・アルカナの根幹にある魅力だと感じました。
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感想
最初の8枚がすべてを決める「戦略型エンジンビルド」の快感
レス・アルカナを遊んでいて、まず強く印象に残るのは、ゲーム開始直後の「考える時間」の濃さです。多くのカードゲームでは、「とりあえず最初の数ターンは様子見」「強いカードが来たらそこからプラン変更」といった流れになりがちですが、このゲームでは8枚のカードを見た瞬間から、本気で全体の筋道を考え始めることになります。
「このカードで生命エッセンスを増やして、それを別のカードで金に変換し、その金で力の場所を取りつつ、最後はここで一気に点数を伸ばす」というように、自分なりの勝ち筋を一本の線として描ける感覚があります。どのカードを中心に据えて、どれをサポートに回すか。どの順番で場に出していくか。開始時の数分で頭の中にエンジンの設計図ができあがっていくこの瞬間が、たまらなく楽しいと感じました。
さらに、8枚のカードを見た後で、自分の担当する魔術師を選ぶフェーズがまた面白いです。動物系のカードが多いならドルイド、変換効果が多いなら錬金術師、といったように、手札とキャラクターの組み合わせでエンジンの方向性をカスタマイズできるのが心地よく、同じ8枚でも違う魔術師を選ぶことで別のゲーム体験になりそうだなと感じました。
ランダム性はあるが「崩れない」設計が心地よい
とはいえ、このゲームにもランダム要素は存在します。最初に見た8枚のカードは、いったんシャッフルされて山札に戻され、その中から3枚を引いてスタートすることになります。つまり、「頼りにしていたコンボパーツが、最初から手札にあるとは限らない」わけです。「あのカードは最初に引けたけれど、もう一枚はデッキの底に沈んでいるかもしれない」といった状況も、普通に起こります。
この「思い描いたプランと、実際の引きのズレ」が、最初は少し怖く感じられますが、実際に遊んでみると、ゲーム側がその揺らぎに対して、いくつかの緩衝材を用意してくれていると分かります。デッキの中をのぞいたり、カードの順番をある程度調整できるカードがあったり、小さなカードドローエンジンを作ることで、欲しいカードにたどり着く速度を上げたりできます。
ただし、ゲーム全体が4〜6ラウンドという短さなので、「メインエンジンの前にドローエンジンを作る余裕があるかどうか」も、常に悩ましいポイントになります。ここに、「完璧な計画を目指したくなる自分」と「時間が足りない現実」のせめぎ合いがあり、毎回違う判断を迫られるのが楽しいと感じました。
40枚とは思えないカード構成の深さと、短時間での爆発的な伸び
アーティファクトカードはたった40枚という数字だけを見ると、「すぐに遊び尽くしてしまうのでは?」と不安になりますが、実際にプレイ感を想像すると、この枚数で十分な深さがあることが伝わってきます。限られたカード枚数だからこそ、一枚一枚の役割がはっきりしていて、組み合わせが際立つ印象です。
ゲーム中の成長カーブも非常に気持ちよく、序盤は本当に「エッセンス数個と夢だけ」でスタートしますが、終盤には「一手番で生命エッセンスを12点ほど生み出し、それを金に変え、10点分の得点に変換する」といった派手な動きができるようになります。前の手番では2点しかなかったのに、次の手番で一気に13点になってゲームが終わる、というドラマチックな終わり方も自然に生まれます。
それでいて、勝ち負けは単なるカード運ではなく、「最初に立てたプランを、どれだけうまく現実に合わせて調整できたか」によって大きく変わってきます。短時間でここまでのエンジンの伸びと達成感を味わえるゲームは、なかなか貴重だと感じました。
コンポーネントと世界観の作り込みが、プレイ体験を一段引き上げている
『レス・アルカナ』は、新興出版社であるSandcastle Gamesから出ている作品ですが、そのコンポーネントの作り込みはかなりのものです。アートワークは美しく、カードやトークンの質感もしっかりしており、さらに専用の収納トレイまで用意されているというこだわりぶりです。ただ単に箱に詰め込むのではなく、五芒星型にエッセンスをまとめておけるようなトレイ構造になっていて、見た目の雰囲気作りにも一役買っています。
「最初の作品からここまでやるのか」と思わせてくれるレベルの作り込みで、ゲーム内容の「完成度の高さ」とコンポーネントの「丁寧さ」がきれいに噛み合っていると感じました。エンジンビルドゲームはどうしても抽象的になりがちですが、こうした物理的な気持ちよさがあると、プレイ中の没入感も一段階深まります。
ドラゴンと攻撃カードは、好みが強く分かれる「トゲ」になる
ここまで良いところばかり挙げてきましたが、個人的にどうしても引っかかるのがドラゴンと一部の攻撃的なカードの存在です。ドラゴンはとても高コストで、簡単には場に出せないようになっていますが、一度着地すると毎ラウンド相手にダメージを与えたり、エッセンスを失わせたりする力を持っています。
もちろん、ドラゴンにはそれぞれテーマに沿った「弱点」があり、特定のエッセンスを捨てることで攻撃をかわすこともできます。それでも、「自分のエンジンを伸ばすために組み上げてきたリソースを、攻撃への対処に回さざるを得ない状況」が続くと、「自分の計画を育てたいのに、守りに追われる」もどかしさを感じます。
さらに、エルフの弓のような比較的軽い攻撃カードは、コストが低いぶん、序盤から「ちくちくと相手を削る」用途で使われがちです。相手が防御カードを持っていないうちは、ほぼ一方的に嫌がらせを続けることもできてしまいます。自分がその役をやる側ならまだしも、「せっかくのエンジンビルドゲームで、ずっと矢でつつかれているだけ」という状況は、正直あまり楽しくありません。
ただし、こうした攻撃カードの存在は、「直接的なインタラクションや、脅威の存在感」を好むプレイヤーにとっては大きな魅力にもなり得ます。「あの人がドラゴンを取ったけど、後半に本気で出してくるのか?」「今のうちに防御を用意しておくべきか?」といった読み合いが生まれることで、テーブル全体の緊張感が高まるからです。逆に、平和にエンジンだけを組みたいタイプのプレイヤーにとっては、この要素が「ほぼ完璧なゲームに残された唯一のトゲ」に見えるかもしれません。
攻撃要素をどう扱うかで、このゲームとの付き合い方が変わる
個人的には、ドラゴンやエルフの弓のようなカードは、遊ぶメンバーやその日の気分に合わせて「入れる」「抜く」を調整したくなるタイプだと感じました。攻撃カードをフルに採用したセットで遊べば、かなり尖ったインタラクションのあるエンジンビルドゲームとして楽しめますし、逆にそういったカードを意図的に外せば、「自分のエンジンがどこまで美しく回るか」をひたすら追求するソロ的な楽しさに寄せることもできそうです。
たった40枚のカードと、いくつかの力の場所・モニュメントで、ここまでゲームの表情を変えられることを考えると、レス・アルカナにはまだまだ拡張やカスタマイズの余地がたくさん残されているように感じました。将来的に、よりポジティブな形でのインタラクションを増やすカード群が追加されれば、「攻撃が苦手なプレイヤー」にとっても、より安心して薦められる一本になると思います。
まとめ:計画好きな人にはたまらないエンジンビルドの到達点
『レス・アルカナ』は、「最初に配られた少ない情報から、最後までの展開を組み立てていく」のが好きな人には、間違いなく刺さるゲームだと感じました。8枚のカードをじっと見つめてプランを練り、それが現実のカードの引きや相手の動きとどう噛み合うかを試していく過程は、他のエンジンビルドゲームにはなかなかない濃度の体験です。
一方で、ドラゴンや攻撃的なカードがもたらす「相手のリソースを削る遊び」は、人によって好みがはっきり分かれる部分だと思います。そこをどう受け止めるか次第で、このゲームが「最高のエンジンビルダー」になるか、「惜しい一本」になるかが変わってきます。それでも、エンジンビルドという一点において、ここまで完成度の高いデザインはなかなかないと感じました。
計画を立てるのが好きで、「短いラウンド数の中で、ゼロから一気にトップスピードまでエンジンを回してみたい」と思うなら、『レス・アルカナ』は一度触れてみる価値が大いにあるゲームだと感じます。


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